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お静かに一杯

「雨もまた良し 」

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 「よおー、今日はえらい早いなあ」
 「何や、自分こそこんな早う」
 「まだ準備中どすえ、なんどす、お二人揃うてこんな早よう」
 「たまには、この汚い店の掃除でもせんと、お客さんに失礼やと思うて。今日も雨やし」
 「付けの代わりに、掃除でごまかそうと思はってもあきまへんえ」
 「私はちがいまっせ。昨夜一緒に飲んだあと、あの大雨の中、えらい剣幕で歩いて帰ると言い張ったんで、ほったんが気になって」
 「いあー、あの雨の中独りほって帰らはるやなんて、冷たいお人」
 「あっ、やっぱり。こちら、そんなお人やいうことがやっと判ったやろ、女将はん。もうあんまり相手にしたらあきまへんで」
 「あれだけ、一緒に帰ろいうてんのに」
 「ずぶ濡れになったやろ、かわいそうに」
 「同情さしまして、えらいすんまへん。実は、あれから、ええお人にばったりと。そのお人ともう一軒。美味しおしたえ、楽しおしたえ。雨もまた良しどんな」       
 「あーあー、かなんなあ女将はんには」


 

「大事なお人」
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 「今日は、朝から大変やったわ」
 「大変って、なんでや」
 「大変って、何か悪いことでも」
 「悪いことなんかありまへん。朝から東京のお客さんを祇園祭にご案内で」
 「お客さんやて。珍しい、なあ」
 「ほんまどすなあ。お客さんって」
 「東京から綺麗なお人が来はったんや」
 「またまた、女将はんを差し置いて、綺麗なお人やって。今夜は嵐やで、女将はん」
 「わざわざ東京から来はったんどっしゃろ。何で、今夜ご一緒しはらしまへんのどす」
 「何でや。大事な女将はんに紹介しても罰が当たらんと思いますけど、なあ女将はん」
 「今夜は東京に用事があるいうて、帰ってしまはって、残念ながら」
 「女将はん、よっぽど内緒にしときたいんやわ。なんにもせえへんんのになあ」    
 「でも、祇園祭の山鉾巡行を全部見たんわ初めてや。今日は天気良かったし」
 「よろしおしたなあ。その綺麗なお方のおかげどすなあ。大事におしやすな」
 「しかし、それ昨夜の夢と違う」






「六道さんへ」
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 「相変わらず暑いなあ」   
 「かないまへんなあ、この暑さ」    
 「ほんまに、たまらんわ。女将はん、早ようキンキンに冷えたビール、ビール」
 「よい鳥はばたつかんといいまっせ」
 「どうでもええけど、乾杯しまひょいな」
 「そうどんな。ほな乾杯」
 「乾杯。ううーん、やっぱりこの一杯」
 「ところでお宅はんら、もう六道さんにお参りに行かはりましたか」
 「ああ、まだやわ。明日にでもご一緒しまひょか。帰りにご飯食べでもどうです」
 「おおきに。何処でお会いしまひょ」
 「わしもご一緒しまっさ」   
 「そやけど、子供の頃、夕暮れ時、夜店につられ、母と六道参りに行ったけど、あの蝋燭の明かりに揺れるあの地獄絵を見た時の怖さ、今でも忘れられへんわ」   
 「六道さんの門前は、あの世とこの世の分かれ道、と聞かされて」
 「話しかわるけど、女将はんと飲むと、いつもあの世とこの世の分かれ道みたいや」
 「なんどす。もうご一緒しまへんえ」



「いけず」
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 「きょうから都おどりか」
 「都をどりの提灯に灯が入って、宵になると、なんやそわそわするなあ」
 「なにをいまさら。年中そわそわ、ごそごそしてるお人が、なあ女将はん」
 「ほんまどす、昨日も花見小路でお見かけしましたえ」
 「エッ、何で一声掛けてくれへんかったん」
 「いゃあ、よろしおしたんか、横にお若いお人が寄り添っていはったのに」
 「誰や、若いお人って」
 「ただの仲には見えまへんでしたえ」
 「女将はん、かなんなあ、あれは、わしの姪っ子やがな」
 「またまた、見え透いたこというて。かないまへんなあ、女将はん」
 「お二人とも、もうええやろ。それより乾杯せんと」
 「女将はん、しゃあないし乾杯でもしまひょか、とりあえず、乾杯」
 「その姪っ子はんに乾杯」
 「おたくら二人、京のいけずの典型やなあ」
 


「大石忌」


 「そろそろ桜がちらほらと」
 「二,三日前に円山歩いていたら枝垂れの蕾もだいぶん膨らんでたで」
 「明日二十日どっしゃろ」
 「二十日いうたら一力で大石忌と違うか」
 「大石はんが切腹しはったんが元禄十六年二月四日」
 「明日は三月二十日やで」
 「うーん、わからんか。あれは陰暦や」
 「今の暦で明日がその日になんのどっせ」
 「そうか。まあどうでもええけど、乾杯、乾杯。女将はん熱燗まだか」
 「乾杯いうたら目の色かえはって、かないまへんなあ」
 「女将はんも目の色変わってまっせ」
 「来週は、花見もせんならんし、前祝に乾杯。うーん、やっぱりこの一杯、たまらん」
 「その大石忌ってどんなことしはんにゃ」
 「大石はんを偲んで、井上八千代はんが「深き心」、あと芸妓や舞妓はんらで「宿の栄」ちゅう舞を手向けはるのんどす」    
 「へエー、さすが祇園で大散財しはった大
石はん。あの世に行っても、もてますなあ」

  
       

                                                                                                                                                                                                                                            「師走のお足」
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 「ああーさむー」
 「外は、みぞれまじりに雨やでー」
 「へえー、そうどすか。昼に錦に買いもんに行ったとき、あんなええ天気どしたのに」
 「もう十二月。先生も走らはるし、我われも走る時期や。みぞれ降っても当たり前」
 「あんたはんらまで走らはんかて」
 「われわれかて、ちょっとは走りまっせ」
 「ちょっとは忙しいときかてあるわなあ」
 「お忙しいのは懐具合とちがいますか」
 「えらいいわれかたや。今日は、懐が温かいさかいお支払いでもと思っていたのに」
 「おお、珍しい。なんかあったんか」
 「まあまあ、先ずはカンパイ、カンパイ」    
 「うう、寒いとやっぱ熱燗やなあ」
 「おいしおすなあ、このいっぱい。ところで、さっきおいやしてたお足のこと、ほんまにどうしはったんどす」
 「女将さんまで、いわんといてんか。わしかて仕事してんにゃさかい」
 「ほな、気にせんとよばれよか」
 「お二人分おたのもうします」






「事始め」
 
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 「おめでとうさんどす。今年もよろしゅうおたのもうします」
 「おめでとうさん。こっちこそ」
 「事始めに、まあ、どうぞ」
 「あっ、おおきに、青竹のお酒か。うう、なんともいえんなあ、この香り・・・、ウー旨い」
 「おいしそうにお飲みやすこと」
 「これを飲まんと、お正月を迎えた気がせえへんなあ、ほんまに」
 「十二月にこのへんの芸妓はんや舞妓はんが、鏡餅を手にお世話になった方々のもとへ挨拶に行く、事始めみたいに・・・」
 「お正月に女将はんのとこへのご挨拶いくのが、わしらの事始めや」
 「鏡餅の代わりに、何かお持ちやしたか」
 「鏡餅の代わりは、わしらの顔」
 「福福しい顔やろ、二人とも」
 「お正月そうそう、怒らんかてええや」
 「怒ってしまへん、あきれてんのどす」
 「とりあえず乾杯しまひょか、事始めに」
 「今年もよろしゅうおたのもうします」






「響く」         
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 「この頃よう雪降るなあ」   
 「ほんまどすなあ」    
 「所で、今宵はお一人どすか」 
 「いいや、いつもの悪友が後から」
 「悪友って・・・、あっ!噂をすれば影が射すっていいますけど、えらいもんどすなあ。ほんまに来はりましたえ」
 「おっ、寒うう、えらい降りや」
 「くしゃみしてたやろ」
 「風邪引いたはりまへんか」
 「いいや、ぜんぜん」     
 「女将はん、あかん」            
 「何を二人でごちゃごちゃ言うてんにゃなあ、それはそうと、早よう乾杯、乾杯」      
 「はいどうぞ」            
 「さすが打てば響く、うれしいなあ」    
 「打っても響かんお人が言うてるわ」           
 「何?」
 「まあまあ、乾杯しまひょ、だいぶ先に来て待ってはったんどすえ、悪友を」
 「悪友って・・・」
 「まだ言うてるわ、響かんなあ女将はん」





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「弘法さんに乗せられ 
「なに持っておいやすの」
 「これか、弘法さんで掘り出しもんがあったんやがな、おかあはん、まあ見てぇなあ」
 「古そうな徳利どすなあ」
 「そうやろ。これはな、行きつけの露天のおっちゃんが、あんさんにだけいうて、奥からそっとだしてきてくれたもんやでぇ。なんでも江戸の中期のお公家はんが使うてはった特別の逸品らしいわ」
 「ほんまかいな、あの貧乏やったお公家はんが酒なんか飲んだはったんか」
 「そうどすけど、なんや汚うおすなあ」
 「ほんまに。そやけど、あんなぎょうさんの人が集まって、みんな鵜の目鷹の目で探してんにゃろ、掘り出しもんなんか有るわけないやろ。おっちゃんに乗せられたんやがな」
 「お二人とも見る目がないおひとやなあ、何でこれがわからんのか、不思議やわ」
 「そんなことどうでもええさかい、おかあはん、ビール冷えたんたのんまっさ。こちらはんキーンと冷えたビールで頭覚まさんとどうもならんようやさかい」





「お精霊さんのお迎え  
 「あ~暑、たまらんなあ、この暑さ」
 「ほんまどすなあ。それはそうと今宵はお一人どすか」     
 「今日は連絡せずや」
 「へーえ、珍しおすなあ、槍がふんのと違いますか、何かあったんどすか」
 「いや、別に、たまには一人でゆっくりと飲むときがあってもええやろ。いつもの顔ぶれでは、酒の味もかわりまへんしなあ」
 「今日は、さぞかし美味しおすえ、年に一回か二回ぐらいと違いますか、お一人の時」
 「そんな事あらへんけど、それはそうと、冷えた旨―いビールたのんまっさ」
 「あっ」
 「えっ」
 「いよっ、お二人おそろいでビールの用意までしてお迎えしてくれはって、おおきに」
 「かないまへんな、ええように、ええように考えはって」
 「ほんまにこのお人は、ええとこに来るなあ。あんさんは、得な性格や」
 「老後の明るい生活を送るには、何でも前向きに考えんとあきまへんで、ほんまに」
 「どっちゃでもええけど、乾杯や。女将はんも、まあ」
 「おたくが言わんでも、手が出てまっせ、女将はんの」
 「はい!乾杯!」
 「へえ、おおきに。やっぱり、おいしおすなあ、最初の一杯は」
 「そやけど今宵の女将はんはなんか輝いてるなあ。なんかええことあったんやろ」
 「嘘、いつわりをいわはったらあきまへんえ。ちょっとみえへんおもたら、えらいおべんちゃいわはって。どこでお勉強しはったんどす」
 「こころにもないことを言って女将はんを迷わしたらあかんでえ」
 「こころにもないって、女将はんは、へちゃか、なあ」
 「へちゃって、そんなことあるかいな。女将はんが大好きで三十年通てんのに」
 「へえ、そうどしたんか」
 「あちこちのお姉さんに、そんなおべんちゃらばっかりいうて回って、はんまに、奥さんをもっと大事にせんとあきまへんでえ。もうちょっと正しい愛情生活をせんと」
 「愛情。あんたにだけは、その言葉いうてほしないわ。わしは、おかあさん命って言う、まじめな生活してまっせ。そういうあんたは、毎日毎日、朝帰りで。奥さんからちょっと聞かされてまっせ」
 「人の短所を言うて自分の長所を言っていけまへんって、お釈迦はんもいうたはりまっせ」
 「都合のええことどすなあ、お釈迦はんのせいにしはって。それにしても、お二人ともわらべの時もおありやしたはずどすのに」
 「ついこないだやったなあ」
 「もう夜の街のお勉強は、よろしおっさかい、ちょっとはお釈迦さん言うたはる、十戒をお勉強おしやす」
 「そんなことしたら女将はんとこも来られまへんでえ。お釈迦さんは、酒飲んだらあかん言うたはるさかい」
 「それとこれは別どす」
 「お釈迦さんいうたら、明日、六道さんにお参りにいきまへんか、女将はん」
 「いきまひょ。ちょうどこちらはんのお母さんの初盆どっしゃろ」
 「お精霊(しょうらい)さんをお迎えする珍皇寺付近は埋葬地で有名な鳥辺野に近いさかい」
 「六道の辻」というて、現世とあの世の分かれ道とされて・・・」
 「お母さんをお迎えして、ちゃんと言うてもらいまひょ」
 「ほんまや。お母さんにきつうきつう言うてもらわんと奥さんがかわいそうでかわいそうで」
 「十六日は大文字さんの送り火に送られて、お精霊さんは10万億土のあの世へかえらはんにゃし」
 「それまでに意見してもらわんとな」

 つい二十年前まで、毎晩、居酒屋で、ああでもないこうでもないと、酒を飲み、どうでもいいことに口角泡を飛ばし、話が弾み過ぎ、翌朝、二日酔いとなり、迎え酒となった、こんな日々が懐かしい。
by hajimerakan | 2006-12-16 09:22 | カウンターの無駄話
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